神戸大学入試解説│2022年度 化学 過去問

西宮の家庭教師ダイアログによる過去問解説。今回は神戸大学の過去問です。

Ⅰ アルミニウムの性質と製法

西宮の家庭教師
かきた
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神戸大学の化学過去問(2022年度)「アルミニウムの性質と製法」に関する問題です。全問簡単です。拍子抜けした受験生も多いでしょう。

問1 難易度:★☆☆☆☆

Alは原子番号13なので、電子の数も13個。

よって、K殻には個、L殻には個、M殻には個となります。

問2 難易度:★☆☆☆☆

[エ]アルミニウムは酸と塩基の両方と反応するので、両性金属(両性元素)といいます。

[オ]Alの表面に人工的に厚い酸化被膜をつけた製品をアルマイトといいます。

[カ]Alと酸化鉄の混合粉末に点火し、高温の溶解した鉄を得る方法をテルミット法といいます。

[キ]通常、電気分解で金属の単体が得られるのは極です。

[コ]アルミニウムの原料となる鉱石はボーキサイトです。

[サ]アルミニウムが得られるのは極です。

問3 難易度:★☆☆☆☆

陰極では水が電子を受け取りますので、以下の反応が起きています。

 2H₂O + 2e⁻ → 2OH⁻ +H₂

よって、発生するのはH₂

問4 難易度:★☆☆☆☆

アルミニウムなどの金属の単体を得る方法は、溶融塩電解です。

ボーキサイトからアルミニウムができるまでの工程を説明した動画です。古い映像に見えますが、基本的な製法は今も変わっていません。非常に味わい深い内容で、ずっと見てしまいますね。

溶融塩電解の工程は11:00くらいからです。

問5 難易度:★☆☆☆☆

酸化鉄(Ⅲ)Fe₂O₃が還元され、アルミニウムが酸化されます。係数はあとで考えるとして、物質を並べてみます。

 Al + Fe₂O₃ → Al₂O₃ + Fe

係数合わせをすると、以下の化学反応式が出来上がります。

 2Al + Fe₂O₃ → Al₂O₃ + 2Fe

西宮の家庭教師 かきた
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係数合わせを苦手とする人は多いですよね。教科書や参考書では、各物質の係数をa、b、c…とおいて、

 aAl +bFe₂O₃ → cAl₂O₃ + dFe

とし、各元素について左辺・右辺を比較し連立方程式を解く、という「未定係数法」が一般的です。

実は、もっと簡単な方法があります。

それは、「もっとも多くの原子を含む物質の係数を1とおく」方法です。

今回であれば、Fe₂O₃とAl₂O₃がどちらも5つの原子を含むのでFe₂O₃の係数を1とおくと、

 Al +Fe₂O₃ → Al₂O₃ + Fe

すると、Feの原子数から右辺のFeの係数が2、Oの原子数からAl₂O₃の係数が1と決まります。

Al +1Fe₂O₃ → Al₂O₃ + Fe

すると、Alの原子数から左辺のAlの係数が2と決まります。

  Al +1Fe₂O₃ → 1Al₂O₃ +2Fe

最後に、分数が含まれていたら整数倍し、1を省略して完成です。

全部ではありませんが、ほとんどがこの方法で係数決定できます。

問6 難易度:★☆☆☆☆

(ⅰ)溶融塩電解において、ドロドロに溶けた酸化アルミニウムの中でアルミニウムはAl³⁺として電離しており、陰極から電子を受け取ります。

 Al³⁺ + 3e⁻ → Al

(ⅱ)Al=27より、1.80gのAlの物質量は、\frac{1.80}{27}\frac{1}{15}mоl。

上記のイオン反応式より、 \frac{1}{15}mоlの析出させるのに必要な電子は\frac{1}{5}mоl。

\frac{1}{5}mоlの電子が流れるときの電気量は、

 9.65 × 10⁴ × \frac{1}{5} = 1.93 × 10⁴(C) 《有効数字3けた》

(ⅲ) 1Aの電流が1秒流れたときの電気量が1Cなので、1時間(=3600秒)で1.93 × 10⁴Cの電気量を得るために必要な電流(A)は、

  1.93 × 10⁴ ÷ 3600=5.361… ≒ 5.36(A)《有効数字3けた》

 

Ⅱ 質量モル濃度と沸点上昇

神戸大学の化学過去問(2022年度)「質量モル濃度と沸点上昇」に関する問題です。特に何も引っかかるポイントのない教科書レベルの問題です。

全問正解は必須でしょう。

問1 難易度:★☆☆☆☆

溶液の沸点が純粋な溶媒よりも高くなる現象は沸点上昇です。

そのまんまですね。簡単すぎて「これいいのか?」って疑いたくなるのは受験あるあるです。

さらっと解いて次行きましょう!

問2 難易度:★☆☆☆☆

質量モル濃度は蒸気圧降下や沸点上昇、凝固点降下の分野で用いられる濃度です。その求め方は、

 質量モル濃度[mol/kg]= \frac{溶質の物質量[mol]}{溶媒の質量[kg]}

分子量を計算すると、C₂H₆O₂=62です。エチレングリコール1.86gの物質量を求めると、

 1.86 ÷ 62 = 0.03[mol]

これが100g=0.1㎏の水に溶けているから、質量モル濃度は

 0.03 ÷ 0.1= 0.300[mol/kg] (有効数字3けた)

高校化学の分野でつかう濃度といえば、ほとんどの場合が「体積モル濃度(mol/L)」です。高校化学で質量モル濃度を使うのは「蒸気圧降下」「沸点上昇」「凝固点降下」のみですね。ではなぜ、わざわざこんなめんどくさい濃度を使うのでしょう。

それは、これらの分野は、溶液の温度変化を前提にしており、それに伴った体積の変化があるためです。体積モル濃度は物質量を体積で割るため、温度変化を伴う現象を解析するには都合が悪いのです。

さらに、「蒸気圧降下」「沸点上昇」「凝固点降下」はすべて溶質によらない溶媒特有の性質なので、溶液全体ではなく溶媒の質量を用います。

問3 難易度:★★☆☆☆

塩化ナトリウム水溶液の質量モル濃度を計算します。

塩化ナトリウムの式量は、C₂H₆O₂=58.5ですから、塩化ナトリウム1.17gの物質量を求めると、

 1.17 ÷ 58.5 = 0.02[mol]

これが100g=0.1㎏の水に溶けているから、質量モル濃度は

 0.02 ÷ 0.1= 0.2[mol/kg]

ただし、塩化ナトリウムなどの電解質は水溶液中では電離しており、沸点上昇度は溶液中の粒子の数に依存しています。塩化ナトリウムは水溶液中では完全電離しているので粒子数は2倍となります。よって、

(塩化ナトリウム水溶液の沸点)>(エチレングリコール水溶液の沸点)>(水の沸点)

となるので、グラフ上の塩化ナトリウム水溶液の沸点はCであると分かります。

問4 難易度:★★☆☆☆

問3より、

A:水の沸点
B:エチレングリコールの沸点
C:塩化ナトリウム水溶液の沸点

 B - A = 0.156 [K]

なので、水のモル沸点上昇Kbは、

 Kb = 0.156 ÷ 0.3 = 0.52 [K・kg/mol]

よって、塩化ナトリウム水溶液の沸点上昇C - A を求めると、

 C - A = 0.02 × 0.52 × 2 =0.208 [K]

よって、

 C - B = (C - A )-(B - A)
  =0.208 - 0.156 = 0.0520 [K](有効数字3けた)

問5 難易度:★★☆☆☆

水は沸騰中、温度100℃で一定ですが、水溶液は沸騰中も温度が上昇します。

これは、沸騰により水が蒸発して減少し、溶液の濃度が上昇することで沸点が上昇するためです。

問6 難易度:★★☆☆☆

TfA =0.260[K]

だから時刻f[s]における塩化ナトリウム水溶液Cの質量モル濃度は、

 0.260 ÷ 0.52 ÷ 2 = 0.25[mol/kg]

水溶液C中にとけている塩化ナトリウムは0.02molだから、溶媒である水の質量は、

 0.02 ÷ 0.25 = 0.08 [kg] → 80g

塩化ナトリウムの質量が1.17gなので、水溶液Cの質量は

80 + 1.17 = 81.17 ≒ 81.2 [g]

 

Ⅲ 有機化合物の構造決定

神戸大学の化学過去問(2022年度)「有機化合物の構造決定」に関する問題です。フェノールの製法であるクメン法とカップリング反応についてしっかり勉強していれば、問題なく解答できるでしょう。

問1 難易度:★★☆☆☆

【化合物B】アニリンの希塩酸溶液を冷やしつつ、亜硝酸ナトリウム水溶液を加えると、塩化ベンゼンジアゾニウムが生成します。

塩化ベンゼンジアゾニウム
塩化ベンゼンジアゾニウム

塩化ベンゼンジアゾニウムは、温まると加水分解して、窒素とフェノールになってしまいます。

よって、化合物Aはフェノール、気体分子Cは窒素N₂であることがわかります。

問2 難易度:★☆☆☆☆

塩化ベンゼンジアゾニウムを生成する上記の反応をジアゾ化と呼びます。

問3 難易度:★☆☆☆☆

クメン法における中間物質で、クメンを酸化してできる物質は、クメンヒドロペルオキシドです。

クメンヒドロペルオキシド
クメンヒドロペルオキシド

高校生の時、化学の先生がクメンの構造の覚え方を「クメンはメロン」と教えてくれました。

クメンはメロン

「クメン」と「メロン」は少し遠いな!と思ったのですが、20年以上たった今でも鮮明に記憶に残っているのですからすごいです。

問4 難易度:★☆☆☆☆

クメン法の最終工程で、クメンヒドロペルオキシドを分解してできるのは、フェノールとアセトンです。

問5 難易度:★★☆☆☆

フェノールに塩化ベンゼンジアゾニウムを加えると、カップリングという反応が起こり、p-ヒドロキシアゾベンゼン(-フェニルアゾフェノール)が生じます。

p-ヒドロキシアゾベンゼン(p-フェニルアゾフェノール
p-ヒドロキシアゾベンゼン(-フェニルアゾフェノール)

問6 難易度:★★★☆☆

エステルC₁₁H₁₂Oを加水分解する化学反応式を考えてみましょう。

 C₁₁H₁₂O₂ + H₂O → [カルボン酸] + C₆H₆O

よって、カルボン酸の分子式はC₅H₈O₂で、

カルボキシ基を別にかくとC₄H₇-COOHとなります。

このC₄H₇-の構造を考えるのですが、この部分は不飽和度1と分かります。

不飽和度は、「水素不足指数」ともいいます。直鎖飽和炭化水素(アルカン)と比べて水素がどれだけ少ないかを表します。

カルボキシ基を水素原子に置き換えると、C₄H₈です。炭素数をnとおくと、CnH2nと書けるので、アルカンよりも水素が2つ少ないことが分かり、不飽和度はこの値を2で割った数値となります。

二重結合や三重結合だけでなく、環状構造が1つできると不飽和度が増加します。これは、輪っかを作ると、両端の水素原子がなくなるため、と理解するといいでしょう。

環状構造を作ると、不飽和度が1増加(水素が2つ少なくなる)

不飽和度については、以下のように整理しておきましょう。

 ・官能基は水素原子に置き換える。

 ・CnH2n+2  →  不飽和度0
 ・CnH2n   →  不飽和度1
 ・CnH2n-2  →  不飽和度2
 ・CnH2n-4  →  不飽和度3…

 ・二重結合  →  不飽和度+1
 ・三重結合  →  不飽和度+2
 ・環状構造  →  不飽和度+1

不飽和度1ということは、二重結合か、環状構造のどちらかを1つもっているということです。

ここで、①直鎖状、②枝分かれ、③環状構造(三角形)、④環状構造(四角形)の4グループに分けて列挙してみましょう。

① 直鎖状

直鎖状に4つ炭素をならべ、左端にカルボキシ基をくっつけます。二重結合となる結合の位置を変えていくと3つ描けますね。不斉炭素原子はありません。

不斉炭素原子あり

さらに、カルボキシ基の位置を左端から2個目の炭素にくっつけることにすると、もう3つ描けます。このうち、1つは不斉炭素原子をもちますね。

② 枝分かれ

4つの炭素原子が枝分かれし、二重結合をもつ場合、カルボキシ基は分岐部の炭素には結合できません。よって、単結合の先にある炭素か、二重結合の先にある炭素かの2択です。どちらも不斉炭素原子はもちません。

③ 環状構造(三角形)

不斉炭素原子あり

4つの炭素原子は「三角形の環状構造の外に炭素原子が1つくっついた構造」をとります。ここにカルボキシ基をくっつける方法は、外の炭素原子につくか、三角形に直接くっつけるかの2択です。このうち、三角形に直接つくパターンでは、不斉炭素原子を2つもちますね。

環状構造の一部をなす炭素原子であっても、不斉炭素原子になることがあります。結合の先にあるものが同等か、そうでないかで判断すれば、意外と難しくありません。

④ 環状構造(四角形)

4つの炭素原子が四角形の環状構造をとり、そのうちの1つの炭素原子にカルボキシ基をくっつくので、上記の1通りです。不斉炭素原子はもちません。

以上より、以下の2つが不斉炭素原子をもちます。

不斉炭素原子を探すとき、1つ1つ考え検討して膨大な時間をかけていませんか?

不斉炭素原子を探すときは「まず関係ないCを除外する」というテクニックを使い、時間を節約しましょう。

不斉炭素原子は4本の手にそれぞれ異なる原子団をもったCです。よって、二重結合や三重結合をもっていたり、CH₂、CH₃と表記されているCは、不斉炭素原子になることはありません。

不斉炭素原子を探すコツ「関係ないCを除外する」

上図のように×印をつけて除外していけば、10個のCから検討が必要なCを2つにしぼることができます。

 

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執筆準備中です。

 

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