今回は神戸大学2019年度化学の過去問です。
もくじ
Ⅰ 物質の結晶構造と性質

「物質の結晶構造と性質」についての問題です。計算量は多いですが、頻出テーマなので解いた経験のある人も多いでしょう。初めての人はしっかり理解して解けるようになってくださいね。
問1 難易度:★☆☆☆☆
(ア)(イ)(ウ)白金を溶かすには、王水と呼ばれる濃硝酸と濃塩酸を体積比1:3で混合した液体が用いられます。

「濃」を忘れないようにしましょう。
問2 難易度:★★☆☆☆
(エ)面心立方格子の単位格子の中に含まれる原子の数は4個です。


立方体の8つの隅に\frac{1}{8}個分の原子が8個、6つの面の中心に\frac{1}{2}個分の原子が6個ありますので、
\frac{1}{8}×8+\frac{1}{2}×6=4(個)
(カ)ダイヤモンド構造の単位格子の中に含まれる原子の数は8個です。


立方体の8つの隅に\frac{1}{8}個分の原子が8個、6つの面の中心に\frac{1}{2}個分の原子が6個、内部に切られていない1個の原子が4ありますので、
\frac{1}{8}×8+\frac{1}{2}×6+1×4=8(個)
問3 難易度:★★★☆☆
(オ)白金の単位格子の一辺の長さをa(㎝)とすると、単位格子の体積はa³(㎤)となります。よって、単位格子あたりの質量は、密度をかけてa³d(g)となります。単位格子には4個の原子が含まれているので、原子1個あたりの質量は \frac{a³d}{4}(g)とあらわすことができます。
原子量Mはモル質量、つまり原子がアボガドロ数個だけ集まった質量と等しくなります。よって、
\frac{a³d}{4}×NA=M
が成り立つので、
NA =M÷\frac{a³d}{4}=\frac{4M}{a³d}
(キ)下図のように、ダイヤモンド構造を\frac{1}{8}にした立方体を斜めに切った断面を考えると、縦\frac{b}{2}(㎝)、横 \frac{\sqrt{2}b}{2}(㎝)の長方形になります。

この対角線の長さは三平方の定理を用いて、
\sqrt{(\frac{b}{2})²+(\frac{\sqrt{2}b}{2})²}=\frac{\sqrt{3}b}{2}(㎝)
となります。これは半径rの4倍にあたるので、
r=\frac{\sqrt{3}b}{2}÷4=\frac{\sqrt{3}b}{8}
問4 難易度:★★★☆☆
²⁸Siの結晶1kg=1000gの物質量は、\frac{1000}{28}=\frac{250}{7}(mol)です。これにアボガドロ定数をかけて原子の個数で表すと、
\frac{250}{7}×6.0×10²³=\frac{1500}{7}×10²³(個)
一方、単位格子1.6×10⁻²²(㎤)あたり、8個の原子が含まれているので、原子1個で占める体積は、 1.6×10⁻²²÷8=2.0×10⁻²³(㎤)
よって、²⁸Siの結晶1kgの体積は、
\frac{1500}{7}×10²³×2.0×10⁻²³=428.6…≒4.3×10²(㎤)
問5 難易度:★★☆☆☆
白金は触媒として用いられることが多いのも特徴です。触媒は反応経路を変化させることで活性化エネルギーを低下させ、反応速度を上昇させます。
問6 難易度:★★★☆☆
一酸化炭素の燃焼反応と一酸化窒素の生成反応の熱化学方程式はそれぞれ以下のように書けます。
CO(気)+\frac{1}{2}O₂(気)=CO₂(気)+283kJ …(2)
\frac{1}{2}N₂(気)+\frac{1}{2}O₂(気)=NO(気)-90kJ …(3)
(2)×2-(3)×2より、
2CO(気)+2NO(気)=2CO₂(気)+N₂(気)+746kJ
よって、(1)の反応の反応熱は746kJとなります。
Ⅱ 電離平衡と緩衝液

「電離平衡と緩衝液」についての問題です。計算量は多いですが、うまく誘導に乗れば、特に難しいことを考えることもなく全問正解可能です。
問1 難易度:★☆☆☆☆
リンの同素体は黄リンと赤リンの2種類が有名です。黄リンは反応性に富み、空気中では自然発火するため、水中に保存します。一方、赤リンは黄リンに比べて反応性が乏しいのが特徴です。リンを空気中で燃焼させると十酸化四リン(P₄O₁₀)が生成します。この十酸化四リンに水を加えて加熱するとリン酸が生成します。
問2 難易度:★★★★☆
(A) 0.10mol/Lのリン酸10mLを純水で100mLに希釈しているので、そこに含まれるリン酸の物質量は、
0.10×\frac{10}{1000}=1.0×10⁻³(mol)
第1中和点までに必要な水酸化ナトリウムも1.0×10⁻³molなので、必要な0.10mol/L水酸化ナトリウム水溶液の体積は、10mLとなります。
(B)(8)式より、[H⁺]²=K₁K₂だから、[H⁺]=\sqrt{K₁K₂}なので、
pH=-log[H⁺]
=-log\sqrt{K₁K₂}
=-\frac{1}{2}(logK₁+logK₂)
=4.65
≒4.7
(C)(A)と同様に考えて、第2中和点までに必要な0.10mol/L水酸化ナトリウム水溶液の体積は、10mLとなります。
(D) 溶液1において塩が完全に電離し、(3)式の平衡が成り立っているとき、
[H⁺]= K₂・\frac{[H₂PO₄⁻ ]}{[HPO₄²⁻] }
この溶液1では\frac{[H₂PO₄⁻ ]}{[HPO₄²⁻] } =1とみなせるので、[H⁺]= K₂
pH=-log[H⁺]
=-logK₂
=7.2

どうして溶液1において\frac{[H₂PO₄⁻ ]}{[HPO₄²⁻] } =1 とみなせるのでしょうか。その理由を考えてみましょう。
K₂=\frac{[H⁺][HPO₄²⁻ ]}{[H₂PO₄⁻]}=6.3×10⁻⁸<1.0×10⁻⁷
なので、 リン酸水素二ナトリウム(Na₂HPO₄)とリン酸二水素ナトリウム(NaH₂PO₄) を等量、純水に溶かした場合、(3)の反応は左に進み(つまりH⁺が減少して塩基性に偏り)平衡に至ります。
このときの各物質の変化量x(mol/L)は、反応が進む前の純水の水素イオン濃度10×10⁻⁷(mol/L)よりも小さく、塩の濃度1.0×10⁻²(mol/L)と比較して十分に小さいといえます。
よって、
\frac{[H₂PO₄⁻ ]}{[HPO₄²⁻] } = \frac{ 1.0×10⁻² +x}{ 1.0×10⁻² -x }≒1
とみなせます。
(E) 溶液1において、[H₂PO₄⁻ ]=[HPO₄²⁻]=1.0×10⁻²(mol/L)とみなせます。
HPO₄²⁻+HCl→H₂PO₄⁻+Cl⁻
の反応が加えた塩酸のぶんだけ進むとすると、反応後のイオン濃度は、
[HPO₄²⁻]=1.0×10⁻² -1.0×\frac{0.2}{1000}÷\frac{100}{1000}=0.8×10⁻²
(F)[H₂PO₄⁻ ]=1.0×10⁻² +1.0×\frac{0.2}{1000}÷\frac{100}{1000}=1.2×10⁻²
(G) \frac{[H₂PO₄⁻ ]}{[HPO₄²⁻] }=\frac{3}{2} なので、
pH=-log[H⁺]
=-log K₂・\frac{[H₂PO₄⁻ ]}{[HPO₄²⁻]}
=-log K₂ -log\frac{3}{2}
=7.2-0.48+0.30
=7.02≒7.0
問3 難易度:★★☆☆☆
リン酸(中程度の強さの酸)から、第1中和点X(pH4.7)に向かっていくので、pH3.1~4.4を変色域にもつメチルオレンジを指示薬に選びます。
このとき、メチルオレンジの色は赤から黄色に変化します。
Ⅲ 有機化合物の構造決定

「有機化合物の構造決定」の問題です。酢酸カルシウムの乾留やオゾン分解などはやや発展的な内容ですが、全体としてはやさしい問題となっています。
問1 難易度:★☆☆☆☆
下図のような特定の構造をもつ有機化合物に水酸化ナトリウム水溶液とヨウ素を加えると、ヨードホルム(CHI₃)と呼ばれる独特の臭気をもつ黄色の沈殿が生成します。


問2 難易度:★★★☆☆
(b)「化合物Cはベンゼンとプロペンから合成することもできる」
(f)「化合物Cを酸素で酸化したのち、硫酸で分解すると化合物Gと化合物Hが生成した」
これらはフェノールの製法であるクメン法の一連の反応ですから、覚えておかないといけないやつですんね。化合物Cはクメンであり、化合物Gと化合物Hは一方がフェノールで、他方がアセトンであることが分かります。
(g)「化合物Gと塩化ベンゼンジアゾニウムを反応させると赤橙色の化合物が生成した」とあります。これはカップリングの反応ですから、化合物Gはフェノールです。これより化合物Hがアセトンであると分かります。
(i)「化合物Hは化合物Jの熱分解(乾留)によって合成することもできる」とあります。アセトンの実験室的生成法として、酢酸カルシウムの乾留がありますので、化合物Jは酢酸カルシウムであると分かります。
問3 難易度:★★★☆☆
(b)「化合物B(1分子)に水素(1分子)を付加させると化合物C(1分子)が得られた」とあります。化合物Cはクメンですから、化合物Bは二重結合をもった下図のような化合物であると分かります。

さらに(c)「化合物Bをオゾン(O₃)と反応させると、化合物Dと化合物Eが生成した」とあります。これはオゾン分解の操作のことで、 炭素-炭素間の二重結合を切断して2つのカルボニル基へと変換する反応が起こります。
化合物Bをオゾン分解すると、アセトフェノンとホルムアルデヒド(下図)が生成しますので、化合物Dと化合物Eのうち一方がアセトフェノンで他方がホルムアルデヒドと分かります。(d)より、化合物Dはヨードホルム反応を呈することが分かるので、化合物Dがアセトフェノン、化合物Eがホルムアルデヒドであることが分かります。


(h)「化合物Gに臭素水を十分に加えると、化合物Iの白色沈殿が生じた」とあり、化合物Gはフェノールなので、化合物Iは2,4,6-トリブロモフェノールであることがわかります。

問4 難易度:★★☆☆☆
フェノールと塩化ベンゼンジアゾニウムを反応させるとp-ヒドロキシアゾベンゼンが生じます。また、このように比較的大きな分子2つを結合させることをカップリングといいます。
問5 難易度:★★☆☆☆
(b)「化合物Aに濃硫酸を加えて加熱すると化合物Bが得られ」とありますから、分子内脱水により問3の化合物Bが生じていると考えられます。よって、化合物Aの構造として考えられるのは以下の2つです。


Ⅳ タンパク質の性質

神戸大学の化学過去問(2019年度)「タンパク質の性質」に関する問題です。標準的な問題ばかりが並んでいて、力試しにピッタリの良問です。
問1 難易度:★★☆☆☆
(ア)(イ)(ウ)タンパク質やポリペプチドを検出する操作のうち、赤紫色に呈色するのはビウレット反応で、2個以上のペプチド結合(つまり3個以上のアミノ酸)を有するペプチドの検出に用いられます。
(エ)(オ)濃硝酸を数滴加えて加熱・冷却後、アンモニア水を加えて橙黄色を呈する反応はキサントプロテイン反応といい、特定のアミノ酸の側鎖(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンなどのベンゼン環をもつ芳香族アミノ酸)がニトロ化されることによって生じます。
問2 難易度:★★☆☆☆
親水コロイドに多量の電解質を加えると、電離の際に水和水がうばわれることにより沈殿が生じます。これを塩析といいます。
問3 難易度:★★☆☆☆
ビウレット反応は、塩基性の水溶液中でポリペプチドが銅(Ⅱ)イオンに配意結合することで起こります。よって、「ある水溶液」に含まれる金属イオンはCu²⁺です。
問4 難易度:★★★☆☆
「元素分析の結果は、炭素59.7%、水素6.1%、窒素7.7%(質量%)であった」とあります。残りの質量は酸素Oが占めているので、酸素の質量%は100-(59.7+6.1+7.7)=26.5(%)となります。
1分子中のC,H,O,Nの原子数をそれぞれ、w,x,y,zとすると、C=12.0、H=1.00、O=16.0、N=14.0なので、
12w:1x:16y:14z=59.7:6.1:26.5:7.7
w=\frac{14×59.7}{12×7.7}z≒9z
x=\frac{14×6.1}{1×7.7}z≒11z
y=\frac{14×26.5}{16×7.7}z≒3z
よって、組成式はC₉H₁₁O₃Nとなります。
もし仮に窒素の数が2個以上だとすると、炭素数が18個以上となります。最も分子量の大きいアミノ酸がトリプトファンで、炭素数11なので、窒素数は1です。
よって分子式も組成式と同じくC₉H₁₁O₃Nとなります。 ベンゼン環をもっているということから考えても、このアミノ酸はチロシンだと分かります。

問5 難易度:★★☆☆☆
「卵白タンパク質を精製して得られたオボアルブミンを酸性水溶液に溶解後加熱した」とあります。このようなpHの変化や温度などの変化によってタンパク質の性質が変化することを「変性」といいます。
変性はタンパク質の立体構造(2~4次構造)が変化することによって生じます。
問5 難易度:★★☆☆☆
「フェーリング液を加えて加熱したところ、赤色沈殿が生じた」とありますから、これはフェーリング反応です。フェーリング反応はアルデヒド基をもつ化合物の還元性に由来する反応です。
フェーリング反応で生じる赤色沈殿は酸化銅(Ⅰ)Cu₂Oです。