今回は神戸大学 2021年度 生物の過去問です。
もくじ
Ⅰ ヘモグロビンの構造と機能
神戸大学の生物過去問(2021年度)「ヘモグロビンの構造と機能」に関する問題です。むずかしい思考は必要としない、標準的な難易度です。が、少し細かい知識が必要な部分もあります。
問1 難易度:★★☆☆☆
酸素と結合するタンパク質はもちろんヘモグロビンです。
その構造は、まずグロビンとよばれる4本のポリペプチド鎖が組み合わさっており、そのポリペプチド鎖にそれぞれヘムと呼ばれる鉄イオンを含む色素が結合しています。
教科書では「タンパク質の構造(一次~四次構造)」のところに例として載っていますね。
難関校ではこういった細かいところからも出題されますので、教科書の隅々まで目を通して勉強することが必要です。
問2 難易度:★★★☆☆
アフリカなどの熱帯地域でみられる、「酸素が不足すると赤血球が三日月状に変形する症状」は鎌状赤血球貧血症です。
そして、アデニンに置き換わる塩基はウラシルです。
「さすがに塩基の種類まで覚えてないよ!運まかせの3択かよ!」という悲痛な声が聞こえてきそうですね。自分もそう思いますが、ちょっとだけヒントが隠されています。
塩基までは覚えていなくても「グルタミン酸からバリンに置き換わること」は記憶にある人もいるのではないでしょうか。図1を見ると、1番目のアミノ酸がバリンで塩基配列が「GUU」となっています。コドン表から一目瞭然ですが、同じアミノ酸を指定するコドンは1番目と2番目の塩基配列が同じであることが多いため、「GUGもバリンなのでは?」と推測することは可能です。
問3 難易度:★★☆☆☆
(1)前提として、酸素解離曲線が表しているヘモグロビンの性質はしっかり覚えておきましょう。
・酸素の多い所では酸素と結びつきやすい(離しにくい)
・酸素の少ない所では酸素と結びつきにくい(離しやすい)
・二酸化炭素の少ない所では酸素と結びつきやすい(離しにくい)
・二酸化炭素の多い所では酸素と結びつきにくい(離しやすい)
組織では、肺胞よりも二酸化炭素濃度が高いので、酸素を離しやすくなります。
「二酸化炭素濃度の差が酸素運搬の効率にプラスに貢献している」と覚えておけば、頭に残りやすいでしょう。
酸素解離曲線から≪肺胞≫と≪組織≫、それぞれにおける酸素飽和度を読み取ります。
≪肺胞≫
酸素分圧 100mmHg 二酸化炭素 30mmHg
→ 98%
≪組織≫
酸素分圧 20mmHg 二酸化炭素 40mmHg
→ 14%
つまり、全ヘモグロビンのうち84%が肺胞から運ばれてきた酸素を組織で離すことになります。本文より、100mLの血液には飽和度100%で20mLの酸素が溶けるので、組織で放出される酸素は血液100mLあたり、
20× \frac{84}{100} =16.8mL
(2)ジョギングなどの有酸素運動を行うと細胞呼吸が盛んになり、組織における二酸化炭素分圧は上昇します。(1)でも確認したとおり、ヘモグロビンは二酸化炭素の多い所では酸素と結びつきにくいので、酸素飽和度は低下します。よって、グラフはbよりも右下を通る曲線となると考えらえます。
(3)脊椎動物の筋組織に存在するミオグロビンは、ヘモグロビンと似た構造をもつ色素タンパク質です。
問4 難易度:★★★☆☆
まず、グルコース1molからどれだけ利用可能なエネルギーが生成されるかを計算してみましょう。
C₆H₁₂O₆ + 6H₂O + 6O₂ → 6CO₂ + 12H₂O +38ATP
本文より、ATP 1molに30.5kJの利用可能エネルギーが存在すると考えられるので、 グルコース1molから生成できる利用可能なエネルギーは、
38×30.5=1159(kJ)
単位をkcalになおすと、
1159×0.239=277.01≒277(kcal)
よって、277kcalの細胞が利用可能なエネルギーを生成するのに必要なグルコースはちょうど1molです。グルコースの分子量は180なので、質量は、
180×1=180(g)
また、グルコース1molから放出されるエネルギーをATPを介さず、そのまま放出したとすると、
2870×0.239=685.93≒686(kJ)
この問題は「呼吸によりグルコース1分子から38分子のATPが生成されること」を前提としていますが、実際には38分子という数字は、肝臓・心臓・腎臓などの限られた細胞における理論上の最大値です。何の説明もなしに計算問題に使うのは正直、抵抗があります。
神大くらいの名門大学であれば、条件に「グルコース1分子から38分子つくられるものとする」という前提はつけてほしいところです。
Ⅱ 遺伝子の発現
「遺伝子の発現」に関する問題です。コドン表を参考に実際にアミノ酸配列を決める問題は必ず練習しておきましょう。
問1 難易度:★★☆☆☆
(ア)(イ)遺伝子の上流にあるプロモーターとよばれる領域に基本転写因子とともにRNAポリメラーゼが結合することで転写がスタートします。
(ウ)(エ)合成されたmRNAは核内から細胞質基質にあるリボソームに移行し翻訳が行わなれます。そこへアミノ酸を運んでくるのはtRNA(運搬RNA)です。
(オ)DNAからRNAを経て情報が伝わりタンパク質が合成される一般原則のことをセントラルドグマといいます。
問2 難易度:★★☆☆☆
(1)スプライシングによって取り除かれる部分をイントロン、取り除かれない部分をエキソンといいます。
英語の「inter-」という接頭辞が「~のあいだ」という意味を持つことから、イントロン(intron)は「あいだにある配列」と覚えると頭に残りやすいですよ。
(2)選択的スプライシングとは、スプライシングの際に複数のエキソンの中からいくつかのエキソンを組み合わせてmRNAがつくられる現象のことをいいます。
選択的スプライシングによって1つの複数種のタンパク質をつくることができます。
この「選択的スプライシング」と、免疫細胞のリンパ球(T細胞やB細胞)が分化する際におこなわれる「遺伝子再編成」は混同しやすいので注意しましょう。
1つの遺伝子から複数種のタンパク質をつくるという点では共通していますが、「選択的スプライシング」がRNAで起こるのに対し、「遺伝子再編成」はDNAレベルで遺伝子が変わります。
問3 難易度:★★☆☆☆
2塩基では4×4=16通りしか塩基の組み合わせができないので、20種類のアミノ酸を指定するには足りません。
問4 難易度:★★★☆☆
5’-CTGTGAACTATGCGTACAGGTCTCCATTGACGATCAAG-3’
まず、問題文にはこのDNA配列が「アンチセンス鎖」なのか「センス鎖」なのかが書かれていません。
もしこれがセンス鎖だった場合、開始コドン(メチオニン「AUG」)と終止コドン(「UAA」「UAG」「UGC」のいずれか)に対応する下記のDNA配列が存在するはずです。
AUG → ATG
UAA → TAA
UAG → TAG
UGA → TGA
5’-CTGTGAACTATGCGTACAGGTCTCCATTGACGATCAAG-3’
無事見つかりました。その間にある塩基は15(3の倍数)なので、読み枠も合います。このDNA配列のT(チミン)をU(ウラシル)に変換してRNAにします。
5’-AUGCGUACAGGUCUCCAUUGA-3’
これらのコドンにコドン表からそれぞれアミノ酸を当てはめていくと、以下のようになります。
開始コドン(メチオニン)-アルギニン-トレオニン-グリシン-ロイシン-ヒスチジン-終止コドン
このDNA配列が「アンチセンス鎖」だった場合も見ておきましょう。まず、このDNA配列を鋳型としたRNA配列をつくります。「A→U」「T→A」「G→C」「C→G」の変換により、この配列を鋳型としたRNAをつくります。このとき、3’末端と5’末端が逆になるので、配列を逆にします
5’-CTGTGAACTATGCGTACAGGTCTCCATTGACGATCAAG-3’
↓
3’-GACACUUGAUACGCAUGUCCAGAGGUAACUGCUAGTTC-5’
↓
5’-CTTGAUCGUCAAUGGAGACCUGUACGCAUAGUUCACAG-3’
はじめから12塩基めに開始コドン「AUG」がありますので、そこから3塩基ずつのコドンの読み枠に区切っていきます。しかし、読み枠の中に終止コドンの 「UAA」「UAG」「UGC」がありません。(読み枠がずれたところにはあります)
5’-CTTGAUCGUCAAUGGAGACCUGUACGCAUAGUUCACAG-3’
よって、問題文の「遺伝子の開始コドンから終止コドンまで含んでいる」という条件に合わないので不適となります。
問5 難易度:★★☆☆☆
塩基の置換による変化は最大でもアミノ酸1つが置き換わるだけです。
挿入や欠失が起こると、それ以降の塩基配列の読み枠がずれる(フレームシフトが起こる)ため、アミノ酸配列が大きく変わる可能性が高いです。
Ⅲ 種子の発芽と光
神戸大学の生物過去問(2021年度)「種子の発芽と光」に関する問題です。光受容体の名称など、受験生のスキを突いてくるような問題です。しっかりもれなく勉強することが大事ですね。
問1 難易度:★★☆☆☆
光発芽種子の発芽は、赤色光が当たると促進され、遠赤色光が当たると抑制されます。この光はフィトクロムというタンパク質によって吸収されます。フィトクロムは赤色光を受容すると、植物ホルモンであるジベレリン合成の誘導をおこないます。このとき、ジベレリンと逆のはたらき(拮抗)をするアブシシン酸は抑制されています。
問2 難易度:★★☆☆☆
一般に光発芽種子は小さい種子が多いです。小さい種子は発芽するためにたくわえている養分が少なく、地中深くで発芽すると光合成可能な地上まで目を伸ばすことができません。つまり、発芽してからなるべく早く光合成をするために、発芽に光を必要とするようになったのです。
問3 難易度:★★☆☆☆
周囲に多く植物がいると、光が植物の葉を通り抜けたり反射されたりします。そのとき赤色光は光合成に使われ吸収されてしまうため、赤色光が減り相対的に遠赤色光の量が増えます。光合成に利用できる赤色光が減ると、生育のは不利なので、発芽を抑制するのです。
「植物が緑色なのはなぜ?」という問いに対する答えは…
「植物は緑色の光がいらないから捨てている」んです。
問4 難易度:★★★☆☆
茎の伸長抑制にかかわる光受容体として青色光を受容するクリプトクロムがあります。
クリプトクロムは 光に基づく花芽形成、伸長などの調節に関与しています。この受容体は植物だけでなく動物にも存在し、概日リズムの調節などに関与しているといわれています。
問5 難易度:★★☆☆☆
イネやコムギなどの種子において胚乳の外側を包んでいる部分を糊粉層といいます。ジベレリンが糊粉層にはたらくと胚乳に存在するデンプンを分解する酵素であるアミラーゼが誘導され、胚にエネルギー源である糖が供給されて発芽・成長に利用されます。
下図は丸覚えして自分でかけるようになりましょう!
Ⅳ 4分の3仮説
問4は社会性昆虫の習性を血縁度から説明しようとする「4分の3仮説(3/4仮説)」についての問題です。内容自体は発展的ですが、大事なことはすべて本文に書かれています。本文を読んで理解することから始めましょう。
問1 難易度:★☆☆☆☆
(ア)集団内で遺伝子頻度が偶然に左右され変化することを遺伝的浮動といいます。
(イ)自然選択は繁殖に生存に有利な形質をもつ個体がより多くの子孫を残すことで起こります。
(ウ)ヒトのように二倍体の生物では、子どもは父親ならびに母親のゲノムの \frac{1}{2} ずつをもっています。
問2 難易度:★☆☆☆☆
分子進化の大半は生存に有利でも不利でもない突然変異で占められています。そもそも、ある程度、環境に適応できている生物では生存に有利な突然変異は生じる可能性が極めて低いのです。また、生存に不利な突然変異は自然選択によって集団から排除されることが多いです。
問3 難易度:★★☆☆☆
集団内で遺伝子頻度が偶然に左右され変化することを遺伝的浮動といいますが、その影響は集団が大きくなればなるほど小さくなります。逆に集団が小さいと、つまり集団を構成する個体数が少ないと、その影響は大きくなります。
問4 難易度:★★★★☆
アリのメスは2組のゲノムをもつ二倍体であり、オスは1組のみで一倍体です。よって、メスのワーカーは、女王アリからは2組から1組のゲノムを、父親アリからは1組のゲノムをそのまま受け取ることになります。よって、女王アリとワーカーの母娘間の血縁度は\frac{1}{2}です。
下図はある1種類の遺伝子(染色体)の伝わり方について模式的に表したものです。
左下にいる1匹のワーカーを自分だとして、「なるべく自分に近い遺伝情報をもった個体を次代に残したい」という前提に立って考えてみてください。
ある一つの遺伝子型に着目すると、父親からは同一の遺伝子がすべての子どもに伝えられ、母親からは2種のうちどちらか1つがランダムに伝えられます。よって、ワーカーから見て同じ父母から生まれた妹たちのもつ遺伝子型は「自分と同じ遺伝子型の個体」と「半分だけ同じの遺伝子型の個体」の半々に分かれます。
この伝わり方が遺伝子ごとに(正確には染色体ごとに)独立に起こります。よって、ワーカーとその妹たちの血縁度を平均すると、以下の計算から\frac{3}{4} となります。
(1+ \frac{1}{2} )÷ 2 = \frac{3}{4}
父母間での血縁はないとすると、母娘間の血縁度は\frac{1}{2}なので、母娘間の血縁度よりも姉妹間の血縁度の方が高くなり、自分の子孫を残すよりも妹の世話をしてその生存確率を高める方が、自分と同じ遺伝子を残す確率が高まる状況が起こりうるのです。