今回は神戸大学2019年度 生物の過去問です。
もくじ
Ⅰ ホルモンと膜タンパク質
「ホルモンと膜タンパク質」に関する問題です。問3のバソプレシンの作用を記述するにはかなり詳しい知識が必要ですが、問3以外はかなり基本的な問題となっています。
問1 難易度:★☆☆☆☆
(ア)インスリンはすい臓ランゲルハンス島のB細胞(β細胞)から分泌されます。
(イ)(ウ) 低血糖を感知すると、副腎髄質からはアドレナリンが、副腎皮質からは糖質コルチコイドが分泌されます。
(エ)(オ)低血糖の血液はランゲルハンス島のA細胞(α細胞)を刺激して、そこからグルカゴンが分泌されます。
(カ)糖質コルチコイドは、タンパク質からのグルコース生成反応を促進します。
問2 難易度:★★★☆☆
酵素が関わる反応の多くはフィードバックなどの調節システムを備えています。有名なのは、副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモンなどで、それらを例に挙げればよいでしょう。アロステリック効果の教科書的な説明を書いてもいいと思います。
【解答例1】
一連の反応の初期段階の酵素のアロステリック部位に最終産物が結合し、立体構造が変化し活性を失うことにより最終産物の生成量が調節される。(66字)
【解答例2】
副腎皮質ホルモンは視床下部-脳下垂体系に作用して副腎皮質刺激ホルモンの分泌を減少させ、結果として副腎皮質ホルモンの分泌量が調節される。(67字)
問3 難易度:★★★★☆
〇ホルモンが細胞膜に存在する受容体に結合
→細胞内の小胞の移動が移動し細胞膜と融合
→小胞にあった膜タンパク質が細胞膜に移動
…という作用を示すホルモンとしては「バソプレシン」があります。
【作用】
バソプレシンが腎臓集合管の上皮細胞の細胞膜上の受容体に結合すると、細胞内にあるアクアポリンをもつ小胞が移動して細胞膜と融合し、細胞膜の水透過性が上昇する。(77字)
問4 難易度:★★☆☆☆
小胞と細胞膜を融合させて、細胞外に物質を分泌する現象をエキソサイトーシス、細胞膜が陥入して細胞内に物質を取り込む現象をエンドサイトーシスといいます。
問5 難易度:★☆☆☆☆
真核細胞において、タンパク質の合成は粗面小胞体に付着したリボソームで行われます。
問6 難易度:★☆☆☆☆
ゴルジ体から生じる小胞から形成される細胞小器官としては、リソソーム(ライソゾーム)があります。小胞内には加水分解酵素が入っていて、エンドサイトーシスや食作用によって細胞内に取り込まれた物質を加水分解します。
また、植物細胞で発達している液胞も同様の機構でつくられます。液胞の役割にはグルコースなど物質の貯蔵、浸透圧の調節等がありますが、リソソームのように加水分解酵素を含み、物質の加水分解をする働きもあります。
Ⅱ 光合成
「光合成」に関する問題です。問3は化学の知識が必要な計算問題です。問4はかなりマニアックな知識を問う問題、問5はグラフの意味を正しく理解したうえでの論述が必要です。全問正解するのはかなり難しい問題と言えるでしょう。
問1 難易度:★★☆☆☆
(ア)(イ)光合成反応は、チラコイドで行われる光エネルギーを化学エネルギーに変換する段階と、ストロマで行われる化学エネルギーを利用して無機物であるCO₂と水から有機物を合成する段階に分けることができます。
(ウ)主要な光合成色素としてはクロロフィルが知られています。
問2 難易度:★★☆☆☆
暗条件に葉を置くと、光合成を行わず呼吸を行うので、供給する空気と比べててCO₂濃度は高くなります。よって暗条件のグラフは(ア)。
光照射を開始すると、光合成が始まるので、CO₂濃度は徐々に下がっていきます。よって光照射後のグラフは(エ)。
問3 難易度:★★★☆☆
まず、1時間で吸収されるCO₂の質量について考えてみましょう。
暗条件での給気口(=空気)と排気口のCO₂濃度の差が0.00024%なので、
(暗条件での排気口のCO₂濃度)=(空気中のCO₂濃度)+0.00024%
光照射を開始してから光合成速度が十分に安定した後の給気口と排気口のCO₂濃度の差が0.00200%なので、
(光照射中のCO₂濃度)=(空気中のCO₂濃度)-0.002%
よって、暗条件での排気口のCO₂濃度と光照射中のCO₂濃度の差は、
0.00024%+0.002%=0.00224%
このCO₂濃度を100Lの空気中に含まれる体積に換算すると、
100×\frac{0.00224}{100}=0.00224Lにあたります。
0℃、1気圧において、1molの気体は22.4Lの体積となりますので、
0.00224LのCO₂は、0.00224÷22.4=0.000100(mol)
CO₂の分子量は44なので、その質量は、
0.0001×44= 0.0044(g) =4.40(mg)
これは葉面積20㎠におけるCO₂吸収量なので、100㎠に換算すると、
4.4× \frac{100}{20}=22.0(mgCO₂/100㎠葉面積/1時間)
問4 難易度:★★★★★
フォトトロピンは、青色光に反応して正の光屈性(光に向かって茎を曲げる)にかかわっていたり、気孔の開口を促進するなど、光合成を促進させるはたらきがあります。また、葉緑体定位運動(光の方向によって葉緑体が細胞内での位置を変える)にもかかわっています。
【作用解答例1】
気孔の開口を促進する。(11字)
【作用解答例2】
正の光屈性にかかわる。(11字)
【作用解答例3】
葉緑体定位運動にかかわる。(13字)
問5 難易度:★★★★☆
まず、問われているのは「ルビスコとGAPDHのどちらが光合成(速度)の主要な限定要因となっていると考えられるか」です。ここでいう「限定要因」とはどういう意味でしょうか。
たとえば、あなたがお寿司屋さんの板前さんだとしましょう。お寿司をつくるのにはお魚とお米が必要で、お店にはお米には十分な在庫があり、魚は毎日その日に使う量を仕入れることとします。
ある日、あなたのお店にネズミの大群が押し寄せ、お米の半分を食べられてしまいました。でもお米の在庫は十分なので、出せるお寿司の量に影響はありません。
またある日、あなたのお店に野良猫が忍び込み、仕入れたお魚の半分を食べられてしまいました。するとその日出せるお寿司の量はいつもの半分になってしまいます。
つまり、どれだけのお寿司を出せるかを決めるのは「お魚の量」です。これが限定要因です。この場合「お寿司の限定要因はお魚」ということができます。
ルビスコとGAPDHの話に戻りましょう。グラフを見ると、遺伝子組み換えによって発現量を通常の50%にしたとき、GAPDHでは変化がありませんが、ルビスコの場合は光合成速度がほぼ半分になっています。つまり、GAPDHは必要量に対して過剰に存在しており、ルビスコが限定要因となっているということです。
【解答例】
GADPHは発現量が50%になっても光合成速度が変化しないので過剰に存在している。一方、ルビスコ発現量は光合成速度と比例しているので、限定要因はルビスコである。(80字)
Ⅲ 種の多様性
「種の多様性」に関する問題です。基礎知識問題から遺伝的多様性の理解度を問う記述問題まで、バランスの良い問題です。
問1 難易度:★★☆☆☆
(ア)ある生物が占める空間や食物連鎖上の位置などの生態的な位置づけを生態的地位(ニッチ)といいます。
(イ)(ウ)突然変異は体細胞でも生殖細胞でもおこりますが、生殖細胞でおきた変異は次世代に伝わる可能性があります。
(エ)有利な形質を持つ個体が集団内に増加し、不利な形質を持つ個体が減少することを自然選択と呼びます。
(オ)生存や繁殖にとって有利でも不利でもない遺伝的変異が遺伝的浮動によって偶然集団内に固定されることがあります。
「遺伝的浮動」は、木村資生(きむらもとお)によって発表された中立進化説の中心となる概念です。
ダーウィンの自然選択説では「適者生存(survival of the fittest)」によって遺伝子が広まるとされてきましたが、それに加えて「幸運な者が生き残る(survival of the luckiest)」という側面もあることが説明されました。
問2 難易度:★★☆☆☆
分類階級の順に並んでいるものは③の「目-科-属-種」です。
さらに上位のものを含めると(ドメイン、)界、門、綱、目、科、属、種です。
亜目や亜種など各階級の下位に中間的な階級もあります。
「界、門、綱、目、科、属、種 」の順番は暗記項目です。「かいもんこうもく、かぞくしゅ」と10回唱えると覚えられます。買い物メモの項目に「家族酒」と書いてあるのをイメージしましょう。
問3 難易度:★★★☆☆
ニホンウナギ、サケ、セミ、トンボなど、成長段階において住む場所を変える生物を選ぶとよいでしょう。
【解答例1】
ニホンウナギは熱帯の深海で産卵・孵化し、温帯の河川などに遡上して成長し、産卵期が近づくと海へ降る。(49字)
【解答例2】
セミは枯れ木の中に産卵し、孵化後幼虫は土にもぐり樹液を吸って成長し、地上に出て羽化し交尾を行う。 (48字)
問4 難易度:★★★☆☆
Y染色体は男性だけがもつ性染色体ですので、父系遺伝です。Y染色体の遺伝的多様性が減少するということは、子孫を残せる男性の数が何らかの理由で減ったということになります。
一方、ミトコンドリアDNAは男性も女性もっていますが、母親からのみ、卵を通じて子に遺伝しますので母系遺伝です。もし、ミトコンドリアDNAの遺伝的多様性も減少していれば、女性の数も減っていることになります。
実際にはY染色体のみ遺伝的多様性が減少しているので、子孫を残せる男性のみの数が減少していることになります。
【解答例】
子孫を残せる男性の数が減り、女性の数が変わらない場合、父系遺伝のY染色体の遺伝的多様性は減少するが、母系遺伝のミトコンドリアの遺伝的多様性は大きく変化しない。(79字)
子孫を残せる男性の数のみが減少した理由についてはいくつか考えられます。ヒトは社会的生活を営みますので、単純に「男性の数が減った」ということだけではないかもしれません。
「大きな戦争が起こり、兵士として多数の男性が死んだ」
「男性の間で感染症が流行した」
「権力の集中により生殖の機会が少数の男性に限定された」
などが考えられるでしょうか。
問5 難易度:★★★☆☆
特定外来生物として有名なものを挙げます。このうち一つ挙げられれば大丈夫です。
ヌートリア、アライグマ、シママングース、カミツキガメ、ウシガエル、ブルーギル、オオクチバス、ヒアリ、アメリカザリガニなど。
特定外来生物は「外来生物法」という法律により定められていますが、これとは別に日本生態学会という団体が「日本の侵略的外来種ワースト100」 を指定しています。
この中にはなんとノネコ(飼育下にないイエネコ)も含まれています。野外で小動物・鳥類を捕食し生態系を乱してしまうためです。ネコは室内で飼いましょう。
Ⅳ メンデルの法則
神戸大学の生物過去問(2019年度)「メンデルの法則」に関する問題です。雌性側と雄性側で配偶子のつくられ方が違うというイレギュラーはありますが、それ以外は「独立の法則」などの基本的な概念を理解していれば大丈夫です。
問1 難易度:★★☆☆☆
(ア)劣性ホモ接合体を交配することにより遺伝子型を調べる方法を検定交雑といいます。
(イ)ヘテロ接合体で検定交雑を行うとヘテロ接合と劣性ホモ接合が1:1に分離します。
問2 難易度:★★☆☆☆
実験結果(1)よりヘテロ接合体Aaの個体が卵細胞をつくるときにはA:a=1:1で次代に伝えられることが分かります。
また 実験結果(2)よりヘテロ接合体Aaが花粉をつくるときにはA:a=2:1の比で次代に伝えられることが分かります。
よって、次代の個体の遺伝子型の割合はそれぞれ、
AA:\frac{1}{2}×\frac{2}{3}=\frac{2}{6}
Aa:\frac{1}{2}×\frac{2}{3}+\frac{1}{2}×\frac{1}{3}=\frac{3}{6}
aa:\frac{1}{2}\frac{1}{3}=\frac{1}{6}
分離比はAA:Aa:aa=2:3:1
問3 難易度:★★☆☆☆
実験結果(3)よりヘテロ接合体Bbの個体が卵細胞をつくるときにはB:b=4:1の比で次代に伝えられることが分かります。
また 実験結果(4)よりヘテロ接合体Bbの個体が花粉をつくるときにはB:b=2:1の比で次代に伝えられることが分かります。
よって、次代の個体の遺伝子型の割合はそれぞれ、
BB:\frac{4}{5}×\frac{2}{3}=\frac{8}{15}
Bb:\frac{4}{5}×\frac{1}{3}+\frac{1}{5}×\frac{2}{3}=\frac{6}{15}
bb:\frac{1}{5}\frac{1}{3}=\frac{1}{15}
分離比はBB:Bb:bb=8:6:1
問4 難易度:★★★☆☆
「遺伝子座ⅠとⅡは別の染色体上にあり、お互い相手の形質には影響を与えない」とあります。つまり、AとBには独立の法則が成り立つするということです。
結果(1)と(3)より、ヘテロ接合体AaBbの個体が卵細胞をつくるときにはAB:Ab:aB:ab=4:1:4:1の比で次代に伝えられることが分かります。
結果(2)と(4)より、ヘテロ接合体AaBbの個体が花粉をつくるときにはAB:Ab:aB:ab=4:2:2:1の比で次代に伝えられることが分かります。
以上より、ヘテロ接合体どうしで交雑した場合の次代の遺伝子型を表にあらわしてみます。
これを集計すると、次代の個体の遺伝子型の分離比が分かります。
AABB:AABb:AAbb:AaBB:AaBb:Aabb:aaBB:aaBb:aabb
=16:12:2:24:18:3:8:6:1