今回は須磨学園中学校 2021年度第2回 理科の過去問です。
もくじ
1 腸内細菌
腸内細菌に関する問題です。基本的な知識を問う設問がほとんどですが、問5(b)は科学的思考力、読解力、表現力が問われる難問です。
問1 難易度:★★☆☆☆
(a)だ液に含まれるアミラーゼは、デンプンを分解して麦芽糖(マルトース)という成分に変化させます。
(b)胃液に含まれ、たんぱく質を分解する酵素はペプシンです。
(c)たんじゅうをつくるのは、肝臓です。たんのう、というたんじゅうを貯めるための臓器もあるので間違えないように注意しましょう。
問2 難易度:★★☆☆☆
腸内細菌とヒトはお互いに利益を与え合う関係(「双利共生」といいます)を築いています。腸内細菌はヒトが食べたものの消化を助けたり、腸内を占拠して悪い細菌が増える場所を与えない等の影響をヒトに与えます。
一方、ヒトが腸内細菌に与えているのは、住む場所、栄養(食べ物)、適度な温度などです。腸内細菌は、嫌気性菌といって生きていくのに酸素を必要としない細菌です。また、腸内は基本的に無酸素状態なので、④が不適切ということになります。
問3 難易度:★★☆☆☆
本文の「び生物」についての説明は「すべてのび生物は単細胞生物」としていますので、多細胞生物を選べばよいことになります。
よって、①ミジンコと⑦アオミドロが正解となります。
ミジンコは甲殻類なので、カニやエビの仲間です。もっと大きな仲間わけだと節足動物なので、昆虫などと同じグループです。
アオミドロは細胞が縦につながって一つの生物個体をつくっており、多細胞生物に分類されます。
問4 難易度:★★★☆☆
(a)問題文には、「1時間で1個から4個に増える」と書いてあります。
細菌は、分裂によって増えるので、あくまでも1個から2個になることを繰り返すことでしか増えられません。よって、この細菌は「30分で1回分裂して1個から2個になる」ことが分かります。3時間半では7回分裂できるので、
15000×2×2×2×2×2×2×2=1920000(個)
(b)256000÷4000=64なので、細菌の個数が64倍になっていることが分かります。
また、64=2×2×2×2×2×2だから、12時間で6回分裂しています。よって、「この細菌1個が2個に分かれるのにかかる時間」つまり1回の分裂にかかる時間は12÷6=2(時間)。
問5 難易度:★★★★☆
(a)一般的なマウスはヒトとおなじように腸内細菌を持っています。腸内細菌の影響として、本文に「病原体の感染を防いだりしています」とあります。つまり、外部から細菌を移植しても、もともといた腸内細菌に邪魔されて住みつけずに排除されてしまう可能性があるのです。よって②。
(b) 無菌マウスに肥満のヒトの腸内細菌を移植するとマウスが肥満になるというアメリカの研究があります。テレビなどで取り上げられることもあるので、知っている人もいるかもしれません。しかし、この問題はその知識を問うものではないと考えられます。
理由としては、以下が挙げられます。
・上記のアメリカの研究結果を知っている前提で問題は作られないこと
・ヒトの腸内細菌がマウスに移植可能かどうかは本文からは判断できないこと
・実験は思った通りの結果が出るとは限らないこと
・ヒトの肥満の原因は腸内細菌だけではないこと 等々
大切なのは、予想にいたるまでの科学的な思考がきちんと40字で表現されているかです。以下にいくつか解答例を示します。
解答例1 【肥満になる】
理由:肥満のヒトの腸内細菌には栄養素の吸収を高めてしまう作用があると考えられるから。(39字)
解答例2 【変化しない】
理由:ヒトとマウスでは腸内細菌の種類が違い、うまく移植できないと考えられるから。(37字)
解答例3 【やせる】
理由: ヒトの腸内細菌は感染防御のない無菌マウスには病気の原因になると考えられるから。(39字)
つまり、どの予想を選んでも、それに至る考え方がちゃんとしていれば得点がもらえる問題だということです。
2 水よう液と結晶
水よう液を冷やしたときに出てくる結晶に関する問題です。問題自体はとても簡単で、正しい方法で勉強を重ねグラフを読めるようになっていれば全問正解できるでしょう。
問1 難易度:★☆☆☆☆
グラフより10℃の水100gに硝酸カリウムは20gとけます。そのときの濃度は、
20÷120×100=16.7(%)
問2 難易度:★★☆☆☆
30℃の水100gに硝酸カリウムは45gとけるから、30℃で290gの飽和硝酸カリウム水よう液に含まれる硝酸カリウムは、
290×\frac{45}{100+45}=90(g)
一方含まれている水は、290×\frac{100}{145}=200(g)
15℃で100gの水に溶ける硝酸カリウムは25gだから、200gの水だと50g溶ける。
よって、結晶として出てくるのは、90-50=40(g)
問3 難易度:★★☆☆☆
水に溶けた状態の硝酸カリウムはろ紙を通り抜けられますが、結晶になると、ろ紙を通り抜けることができません。よって、アが「硝酸カリウムの結晶」、同じ色のイが「水に溶けた硝酸カリウム」です。よって④。
問4 難易度:★★☆☆☆
問2より、30℃で290gの飽和硝酸カリウム水よう液には硝酸カリウム90gと水200gが含まれています。 ここから40g水を蒸発させると、水は160となります。
15℃で水160gに溶かすことのできる硝酸カリウムは、
25×\frac{160}{100}=40(g)
よって、結晶として出てくるのは、90-40=50(g)
問5 難易度:★★★☆☆
(A)70℃の水100gに塩化ナトリウム25gを溶 と かした水よう液
(B)70℃の水100gに硝酸カリウム60gを溶かした水よう液
まず、塩化ナトリウムのグラフを見ると、0℃でも100gの水に30g近く溶けることがわかり少なくとも0℃までは(A)から結晶が出ることはなく濃度は変わることはありません。
(B)が(A)と同じ濃度になるのは、結晶がでることによって濃度が下がり、25gだけ溶けている状態のときなので、グラフより、15℃。
問6 難易度:★★☆☆☆
塩化ナトリウムの結晶は立方体の形をしているので、④です。
硝酸カリウムの結晶は棒状の形をしているので、②です。
問7 難易度:★★☆☆☆
5℃において100g、150g、200gの水に溶ける硝酸カリウムと塩化ナトリウムの量を表に示します。
水100g | 水150g | 水200g | |
塩化ナトリウム | 35g | 52.5g | 70g |
硝酸カリウム | 15g | 22.5g | 30g |
これより、選択肢➀~⑥の水よう液を5℃まで冷やしたとき、結晶ができるものに〇、できないものに×を付けると、次の表になります。
➀ | ② | ③ | ④ | ⑤ | ⑥ | |
塩化ナトリウム | × | 〇 | 〇 | × | × | 〇 |
硝酸カリウム | 〇 | 〇 | × | × | × | × |
よって、塩化ナトリウムの結晶だけが出てくるのは③と⑥。
3 光の性質
光に関する問題です。作図によって光の道筋を正確にかけるかがポイントとなります。カーブミラーに映るウインカーの方向はややこしいですが、落ち着いて考えればわかると思います。
問1 難易度:★☆☆☆☆
太陽の光や蛍光灯の光などの白色光はいろんな色の光が混じったものです。「夕焼けや朝焼けの太陽が赤く見える」のは、斜めに地球に入ってきた光がよりたくさんの空気を通り抜けてくる過程で、赤色以外の光が散乱してしまうからです。赤色の光は散乱しにくいので、まっすぐ届くのです。
問2 難易度:★★☆☆☆
それぞれから出る光エネルギーは同じなので1とすると、LEDでは2の電気エネルギーが必要です。白熱電球はLEDの5倍のエネルギーを必要とするので、10の電気エネルギーが必要です。
「白熱電球やLEDは電気エネルギーを光エネルギーと熱エネルギーとに変換しています」とあるので、白熱電球から出る熱エネルギーは9、LEDから出る熱エネルギーは1です。よって、白熱電球から発生する熱エネルギーは LEDから発生する熱エネルギーの9倍となります。
問3 難易度:★★★☆☆
(a)平らな鏡では、鏡面について対称な位置にある点をそれぞれA’、B’、C’、D’として図中に表すと分かりやすくなります。下図より、A’とD’は観測できないことがわかります。
(b)凸面鏡の場合、入射角=反射角であることを利用すると、見ることのできる範囲は下図の通りです。A~Dのすべての点を観測できます。
問4 難易度:★★★☆☆
もし鏡の中でなく、普通に図2のような車を見たとすると、車は向かって右、つまり左のウインカーを点けていますね。しかし、これは鏡像なので、実際には点いているのは右のウインカーです。交差点の左からくる車が、右折しようとしているのですから、手前に曲がり、近づいてくることになります。
また、凸面鏡は問3(b)から分かるように、広い範囲を映すことができます。
問5 難易度:★★☆☆☆
入射角=反射角が成り立つように光の道筋をかきこむと、下図のようになります。
光が出された方向に返っていくような反射のしかたをするのは。②のように2枚の鏡を直角に置いたときだとわかりますね。
4 日食の起こり方
日食に関する問題です。基本的な問題なのですが…簡単にするために月の公転を無視した設定なので、問6の日食の欠ける順番が実際とは東西(左右)が逆になってしまっています。
日食の欠け方や月の公転との関係まで学習している受験生にとっては、混乱のもとになる可能性があるので無理して解く必要はないでしょう。
問1 難易度:★☆☆☆☆
太陽の周りを回転している天体のことを惑星といいます。
問2 難易度:★★☆☆☆
木星には79個も衛星があります。代表的なものとして、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストがあります。フォボスは火星の衛星です。
問3 難易度:★★★☆☆
天動説はプトレマイオスが2世紀にまとめ、すっと信じられてきましたが、16世紀コペルニクスにより、地動説が説明されました。
アリストテレスはプトレマイオスの影響を受けて天動説をさらに発展させました。
アリスタルコスは紀元前3世紀ごろ、すでに地動説のもととなる太陽中心説を唱えていた科学者です。
地動説ではガリレオ・ガリレイも有名ですが、彼が生まれたのはコペルニクスが亡くなった20年後です。自作の望遠鏡を使い、月の凹凸、木星の衛星、金星の満ち欠け、太陽黒点などを発見してコペルニクスの説を支持しました。宗教裁判にかけられ無理やり天動説を支持することを宣誓させられ、「それでも地球は動く」と言ったというエピソードは有名ですね。ただ本当はそんなこと言ってないという説もあるようです。
問4 難易度:★★☆☆☆
月食は、地球の影が月に映る現象です。つまり、地球が太陽と月の間にあるものを選べば良いことになります。よって、②太陽、地球、月が正解です。
問5 難易度:★★☆☆☆
図2-2において、点線で挟まれたおうぎ形の中心角は15°です。地球は24時間で360°回転するので、1時間で15°回転します。日食を観測できる地球上の範囲はおうぎ形二つ分なので、観測者は、日食を最長で約2時間観測できることになります。
問6 難易度:★★★☆☆ ※注意※
図2-2を見ると分かる通り、①のように太陽が完全に隠れた皆既日食を観測できるのは、真上付近、つまり南中付近にきたときだとわかります。(じっさい、皆既日食が起こるのは正午付近です)
図2-2のように観測者が半影の中に入っていくとき、観察者から見ると、月は太陽よりも東(左)にあります。ここから月は太陽に近づいってから完全に隠し、それから逆方向へ抜けていきます。
皆既日食になる直前の段階では、月は太陽の左側(東側)にありますので、太陽は③のように見えるはずです。逆に、皆既日食の直後、月は太陽の右側(西側)にありますので、太陽は①のように見えるはずです。
日食が見られるのは、最長で皆既日食の前後1時間くらいです。これを太陽の観測できる角度に換算すると、南中するポイントから東に15°ずれたところから日食がはじまり西に15°ずれたところで終わることが分かります。
よって、南中から左に1つズレた点に③、南中に②、右に1つズレた点に①がこの問題では正解となるでしょう。
ただし、これは実際の欠け方とは逆であることに注意しましょう。日食には地球の自転だけでなく、月の公転が関わっているからです。日食が起こるとき、公転する月が西側から太陽の前を横切り、東側に抜けていきます。
地球(観察者)から見ると、月は太陽と同じように東の空から西へ動きます。月は地球の自転を追いかけるように公転しているので、そのぶん太陽よりも遅く見えます。太陽が月を追いこす過程で日食が起こるのです。
下図は、2020年6月21日に部分日食が起きた時の各地の予報です。これを見ると日食は「西が先、東が後」であることが分かります。これは日の出や日の入り、南中時刻が「東が先、西が後」なのとは逆ですね。このことからも、日食の起き方が地球の自転だけでは説明できないことが分かります。
問7 難易度:★★☆☆☆
半影に入ると部分日食は観測できますが、本影に入らないと皆既日食を見ることはできません。
【解答】
2020年6月の日食では、日本は半影には入ったが本影には入らなかったから。
問8 難易度:★★☆☆☆
月が公転する軌道は、完全な円形ではなく、だ円形をしています。なので、地球との距離に差が生まれ、近いときには月が大きく、遠いときには小さく見えることになります。
【解答】
月が公転する軌道がだ円形だから。(16字)