神戸大学入試解説│2020年度 生物 過去問

今回は神戸大学入試 2020年度生物の過去問です。

Ⅰ DNAの複製

西宮の家庭教師 かきた
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神戸大学の化学過去問(2020年度)「DNAの複製」に関する問題です。問われていることは基本的な内容が多いですが、記述が多くポイントをおさえてまとめる力が必要です。問2のような設問は初めて見ましたが、想像力を問う面白い問題ですね。

問1 難易度:★★★☆☆

DNA鎖には川が上流から下流へ流れるように、方向性があります。DNAの上流のことを「5’末端」下流のことを「3’末端」と呼びます。DNAの合成には5’末端側から3’末端側へのみ連続して起こるという性質があります。そして、DNAの2本鎖は、互いに逆向きの状態で結合しています。

DNAの複製が起こるとき、DNAヘリカーゼによって2本鎖が各所でほどかれていきます(開裂)。全体が完全にほどけるのを待たず、新たなDNAの合成は開裂したそばから始まります。ほどけた2本鎖の両方でDNAの合成が起こるのですが、そのとき、両者のDNA合成の様式は少し異なります。

DNA複製におけるリーディング鎖とラギング鎖(岡崎フラグメント)

ある鎖では、合成されたDNA鎖が伸びていく方向と開裂の進む方向が一致しています。この場合、DNA合成はとぎれることなくスムーズに進みます。これをリーディング鎖といいます。

もう一方の鎖ではDNA鎖が伸びることができる方向と開裂の進む方向が逆になります。これをラギング鎖といいます。 ラギング鎖では、

開裂が進む→DNAの断片が合成される→開裂が進む→DNAの断片が合成される→ …

という過程を繰り返さなければならないので、数百塩基対くらいの短いDNA断片が不連続に合成されることになります。これを岡崎フラグメントといいます(1967年、日本の分子生物学者、岡崎令治さんにより発見されました)。

そして、DNAリガーゼのはたらきにより隣り合った岡崎フラグメントどうしが5’末端と3’末端で結合され、ラギング鎖が完成します。(実際には、プライマーという小さなRNA断片も関わるのですが、ここでは割愛します)

【解答】
ラギング鎖ではDNAヘリカーゼによる2本鎖DNAの開裂と新しいDNA合成の方向が逆向きなので、岡崎フラグメントという短いDNA断片が不連続に合成され、DNAリガーゼにより結合する。 (90字)

西宮の家庭教師 かきた
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ラギング鎖は「遅延鎖」と呼ばれることもあり、英語の「lag(遅れ)」が語源となっています。「ラギング」と「リーディング」の語感と関連づけると覚えやすいですね。

問2 難易度:★★★★☆

大腸菌のような原核生物のゲノムDNAは環状構造です。下図のように輪っかの一点から開裂しDNAの合成もそこから始まります。

原核生物のDNA複製

問題文より、複製のもとになるDNAは放射性同位体元素で標識されています(上図赤線)が、新しくできるDNAは標識されません(上図黒線)。

問題文に「太線が放射線量が多い領域を示している」とありますね。その領域は2本鎖とも標識されていると考えられ、上図の赤二重線にあたります。また細い線は、DNA合成済(半分だけ標識)の部分で上図の赤と黒の二重線にあたります。

(ア)「複製起点」はDNA合成済みの部分の中央に2カ所あり、設問図では細線の中央2カ所にあたります。よって、BとHです。

(イ)「DNAポリメラーゼ」はDNA合成済みの部分と開裂していない部分の境界部にありますので、設問図では太線と細線の境界部にあたります。よって、DとFです。

(ウ)「複製終結点」は両方向に進むDNA合成が出会うところなので、開裂していない部分の中央にあり、設問図では太線の中央にあたります。よって、Eです。

問3 難易度:★★★☆☆

(1)DNAの原料(DNAポリメラーゼの基質)となるヌクレオチドは、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP:dATP、dTTP、dGTP、dCTP)です。

なので、 リン酸が3つ、2’の炭素原子に水素のみがくっついている(オ)が正解です。

(2)1.6×10⁹ ÷ 3.2×10²=5.0×10⁶

より、ヌクレオチドが5.0×10⁶ 個あるということです。塩基対(ヌクレオチドのペア)の数は、その半分の2.5×10⁶ 塩基対となります。

(3) 1箇所の複製起点から複製が始まる場合、その両側に向かって複製が行われていくので、1秒あたり1600ヌクレオチドずつ複製が進みます。

2.5×10⁶÷1600=1562.5(秒)≒26分

(4)RNAを鋳型として相補的な配列のDNAを合成する酵素を逆転写酵素といいます。

逆転写酵素はレトロウイルスとよばれるウイルスのなかまがもっています。AIDS(後天性免疫不全症候群)を発症させるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などが、このレトロウイルスに属しています。

西宮の家庭教師 かきた
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逆転写酵素は「新型コロナウイルスのPCR検査」にも利用されています。PCR法は目的のDNA配列を増幅させて検出する手法ですが、コロナウイルスは遺伝情報をRNAの形でもっています。RNAのままではPCR法で増やせないので、いったん逆転写酵素を使ってRNA配列をDNAに逆転写し、それをPCR法で増幅しているのです。これを逆転写PCRとかRTーPCRといいます。

問4 難易度:★★★☆☆

DNAの塩基配列の変化がアミノ酸配列に影響をおよぼす例としては、置換による指定アミノ酸の変化や、終止コドンができてしまうナンセンス変異、欠失・挿入によるフレームシフト(読み枠のズレ)などがあります。

【例1】アミノ酸を指定する塩基配列が変化することにより、別のアミノ酸に置き換わってしまう。(41字)

【例2】アミノ酸を指定するはずの塩基配列が終止コドンに変化し、翻訳の過程でタンパク質の合成が止まってしまう。(50字)

【例3】塩基の挿入や欠失が起こってコドンの読み枠がずれ、以降のアミノ酸配列が大きく変化してしまう。(45字)

 

Ⅱ 酵素反応と最適pH

西宮の家庭教師 かきた
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「酵素反応と最適pH」に関する問題です。問1、2は基本的な知識を問う問題ですが、問3は実験結果から発展的な内容を読み取り、指定字数にまとめるやや難しい問題になっています。

問1 難易度:★★★☆☆

酵素反応の速度が酵素濃度に依存するのは「基質が十分たくさんあるとき」です。酵素反応では、酵素と基質はいったん結合して酵素基質複合体になる必要があるからです。

酵素を工場で働く作業員、基質を材料に例えてみましょう。酵素基質複合体は作業に取りかかっている状態ということになります。材料が十分たくさんあるとき、作業員が2人から4人に増えると全員が作業に取りかかれますので、作業スピードは2倍になりますね。

基質過剰の酵素基質反応

でも材料が少ないときは、作業員が2人から4人に増えても仕事のない作業員が出てきてしまい、作業スピードが2倍にならないという事態が起こります。

酵素過剰の酵素基質反応

これと同じことが酵素反応でも起こります。つまり、基質濃度6.0mg/ml NPPだと、基質がたくさんあり、酵素を増やしても常に基質酵素複合体ができている状態なので、酵素濃度と反応速度は比例します。

しかし、基質濃度0.2mg/mlだと基質濃度が低すぎて、酵素濃度を増やしていくと基質酵素複合体をつくれない酵素が出てきてしまいます。反応速度は酵素濃度に比例しなくなるのです。

【解答】
酵素過剰で酵素基質複合体をつくれない酵素があらわれるため。(29字)

問2 難易度:★★☆☆☆

ヒトの胃液には塩酸が含まれており、pH1~2程度の強酸性です。これは食べた物を殺菌する目的があります。そして、胃ではたらきタンパク質を分解するペプシンはpH2前後で最もよくはたらき、中性や塩基性になると変性・失活してしまうという性質をもっています。

【解答】
胃で働き、食物中のタンパク質を分解する活性をもち、最適pHが約2の消化酵素。(37字)

問3 難易度:★★★★☆

この問題を理解するためには実験2と実験3の違いを整理することが大事です。実験2では、グラフの横軸にあるpH下で反応をさせているのに対し、実験3ではそのpHで前処理をし、最適pH5.6で反応させています。

グラフを見ると、pH3、4、5、6で前処理した酵素は最適pH・前処理なしでの反応と同程度の活性をもっていることが分かります。このことは「pHを最適pH付近に戻せば活性は可逆的に回復する」ことを示しています。

ただし、 pH2、7、8で前処理した酵素は大きく活性が落ち、最適pHに戻しても前処理なしと同程度までは回復していません。これは前処理のpHが最適pHから大きく外れていると、不可逆的な構造変化を起こし最適pHに戻しても元に戻らない」ことを示しています。

【解答】
pH3から6の失活は可逆的で回復するがそれ以外では不可逆的に構造変化し回復しない。(40字)

西宮の家庭教師 かきた
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最適pHから外れると酵素が変性し失活するということは教科書的な知識ですね。でも実際にはpHの外れ具合によってはその活性低下は可逆的であるということです。このことは教科書や参考書には載っていません。教科書にない知識を実験結果からいかに読み取るかがポイントですね。

 

Ⅲ 遺伝子頻度と遺伝子発現

西宮の家庭教師 かきた
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「遺伝子頻度と遺伝子発現」に関する問題です。ハーディ・ワインベルグの法則は、共通テストでも2次試験でも頻出テーマです。とくに前提とする5つの条件はしっかり覚えておきましょう。記述の問題は基本的な内容を問う問題で、落ち着いて必要な情報をまとめれば回答できるでしょう。

問1 難易度:★★☆☆☆

「雑種第一代(F1)においては、すべての個体が、葉でSを合成しなかった」とありますから遺伝子aは劣性で、実際に葉でSを合成する個体は遺伝子型aaであることが分かります。また「700個体を採集したところ、252個体が葉でSを合成していた」とありますので、aaの割合は252÷700=0.36となります。

「2年目の調査でのSを合成する表現型の頻度は遺伝子平衡が成立時に期待された表現型の頻度と一致した」とありますから、遺伝子頻度は変わらず、ハーディ・ワインベルグの法則が成立していると考えて良いでしょう。

対立遺伝子aの遺伝子頻度をpとすると、p²=0.36だからp=0.6。

よって、遺伝子頻度はAが0.4でaが0.6

2年目に期待される葉でSを合成する表現型の頻度は、1年目と同じく0.36であると推定されます。

問2 難易度:★★☆☆☆

ハーディワインベルグの法則が成立する前提条件5つは覚えておかなければなりません。
① 集団内の個体数が大きい。
② 集団への個体の移入・移出がない。
③ 集団内で個体が自由に交雑できる(性選択がない)。
④ 集団内で突然変異が起こらない。
⑤ 個体間で生存力や繁殖力に差がなく自然選択が働かない。

「Zの葉に感染する外来の病原菌が大発生し(中略)葉でSを合成する個体に寄生し、葉でSを合成する個体全てを枯らしてしまった」とあります。よって、葉でSを合成する個体は次代に子孫を残す機会を失ったことになります。つまり⑤の「個体間で生存力や繁殖力に差がなく自然選択が働かない」という前提が崩れてしまったのです。

【解答】
生存力や繁殖力に差がなく自然選択が働かないという前提。(27字)

問3 難易度:★★☆☆☆

2年目に病原菌の影響で、葉でSを合成する個体は全滅しました。しかし、葉でSを合成しない個体であっても、遺伝子型Aaのヘテロ接合の個体が多くいますので、対立遺伝子aは維持されています。

このヘテロ接合体どうしでの交雑や自家受粉により、次世代では再び遺伝子型aaの個体、つまり葉でSを合成する個体が生まれることになります。

【解答】
残った遺伝子型Aaのヘテロ接合体どうしの交雑や自家受粉により葉でSを合成する個体が再び生まれたから。(50字)

問4 難易度:★★★☆☆

表1より、BBCcやBbCCがBBCCと同じ表現型となることから、野生型の対立遺伝子BとCは、変異型bとcに対して優性であることが分かります。調節遺伝子ⅠとⅡの発現の有無とS合成の関係を表にすると、以下のようになります。

BCBcbCbc
調節遺伝子Ⅰの発現××
調節遺伝子Ⅱの発現××
葉でのS合成××
根のでS合成×

この表より、調節遺伝子Ⅱより合成される調節タンパク質Ⅱが葉におけるタンパク質Sの合成を抑制しており、遺伝子Xが発現したときの特徴と一致することが分かります。

問5 難易度:★★★☆☆

まず、問4より、調節タンパク質Ⅱは葉におけるタンパク質Sの合成を抑制するので、選択肢は(イ)か(ウ)にしぼられますね。

調節タンパク質Ⅰが調節遺伝子Ⅱを活性化していたとすると、調節遺伝子Ⅰだけの機能が失われたbCでは調節遺伝子Ⅱのはたらきが弱まり、Sの合成は促進されるはずです。でも実際にはbCでは葉でも根でもSは合成されていませんので矛盾が生じます。

調節タンパク質Ⅰが調節遺伝子Ⅱを抑制していたとすると、調節遺伝子Ⅰだけの機能が失われたbCでは調節遺伝子Ⅱのはたらきが強まり、Sの合成は抑制されます。実際に、bCでは葉でも根でもSは合成されていないので、矛盾はありません。よって、(イ)が正解です。

(イ)の図の関係性から、調節遺伝子Ⅰが発現すると結果的にSが合成され、 調節遺伝子Ⅰが発現しないと、結果的にSが合成しないことが分かります。よって、野生型においては根で調節遺伝子Ⅰが発現し、葉では発現しないことが分かります。

【解答】
根:調節遺伝子Ⅰが発現して調節タンパク質Ⅰ合成され、調節遺伝子Ⅱの遺伝子発現を抑制する。その結果、遺伝子Sの遺伝子発現が活性化され、Sが合成される。(72字)
葉:調節遺伝子Ⅰが発現しないので調節タンパク質Ⅰが合成されない。その結果、調節遺伝子Ⅱが発現して調節タンパク質Ⅱが合成され、遺伝子Sの遺伝子発現が抑制される。(77字)

 

Ⅳ 植物プランクトンと海洋生態系

西宮の家庭教師 かきた
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「植物プランクトンと海洋生態系」に関する問題です。全体的に問われる知識も記述力も高いレベルが求められています。それでも問1、問3、問4あたりは基本的な知識があれば解けますので確実に解答したいところです。

問1 難易度:★★☆☆☆

葉緑体はすべてシアノバクテリアが起源だと考えられています。また、シアノバクテリアと全ての真核性藻類はクロロフィルaを光合成色素としてもっています。

問2 難易度:★★★☆☆

約30億年前の地層でみられる縞(しま)状鉄鋼層は、工業的に使われる鉄鉱石の重要な鉱床として知られていますが、生物由来の酸素が地球上に存在した証拠であると考えられています。その成り立ちは、光合成により放出された酸素と水中の鉄イオンにより酸化鉄が生じ形成されたといわれています。

【解答】
光合成により放出された酸素と水中の鉄イオンが反応して酸化鉄が生じ堆積することで形成された。 (45字)

問3 難易度:★★☆☆☆

以下は生産者と消費者の物質収支を表す図です。これはしっかり覚えておく必要がありますね。

物質収支(生産者と消費者)

よって、生産者の成長量 = 総生産量 -(被食量呼吸量枯死量

問4 難易度:★★★☆☆

「森林は草原に比べて10倍近い現存量を持つが、純生産量の平均値では2倍程度に過ぎない」とあります。よって、森林の方がその規模のわりに純生産量が少ない理由を、樹木と草本のからだの構造の違いをもとに説明すればよいことになります。樹木は草本に比べ、高いところで光合成をするために根や幹などの非同化器官が発達しています。

【解答】
草本に比べ樹木は高所で光合成をするために根や幹などの非同化器官の割合が高いから。(40字)

問5 難易度:★★★☆☆

本文には「外洋域においては栄養塩が不足しやすいため、栄養塩が川などを通じ供給される浅海域の方が外洋域に比べて純生産量の平均値が高い」とあります。また「海洋域における生産者の現存量」は、要は「植物プランクトンの量」ですので、現存量も浅海域の方が大きいと考えられます。

よって、(ウ)は0.003kg/㎡だと分かります。

純生産量の世界全体の値を面積あたりの平均値でわると、そのエリアの面積が算出できます。

(ウ)=10の場合、海洋域全体の純生産量は、19.6×10¹² kg/年なので
19.6×10¹²÷0.15≒1.3×10¹⁴(㎡)=1.3×10⁸(㎢)

(ウ)=40の場合、海洋域全体の純生産量は、49.6×10¹² kg/年なので
49.6×10¹²÷0.15≒3.3×10¹⁴(㎡)=3.3×10⁸(㎢)

地球上の海の面積は約3億6000万㎢なので、(ウ)=40の方が適切だと分かります。

西宮の家庭教師 かきた
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地球上の海の面積を覚えていなくても陸域の面積を出せば正解を選べます。
115×10¹²÷0.77≒1.5×10¹⁴(㎡)=1.5×10⁸(㎢)
となります。地球上の海域は明らかに陸域よりも広いので、 (ウ)=40が適切だと分かります。

問6 難易度:★★★★☆

生態ピラミッドを現存量と生産量について表すと、現存量では逆ピラミッド型になっていることが分かります。

浅海域での生態ピラミッド

【特徴】
生産量では消費者よりも生産者が大きく、栄養段階が高いほど少ない一般的な生態ピラミッドの形をしているが、現存量では生産者より消費者の方が大きく、逆転したピラミッド型をしている。(87 字)

「栄養塩が川などを通じ供給される浅海域の方が外洋域に比べて純生産量の平均値が高い」ため、 浅海域で総生産量が高くなること明らかです。この生産量が現存量として残らない理由としては、被食量が大きいと考えるのが妥当でしょう。

【原因】
栄養塩が豊富で生産者の生産量が大きいが、その多くが消費者に被食されているため。(39字) 

 

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