神戸大学入試解説│2018年度 生物 過去問

西宮の家庭教師ダイアログによる過去問解説。今回は神戸大学の過去問です。

1 ゲノムとその解析

神戸大学の生物過去問(2018年度)「ゲノムとその解析」に関する問題です。難しい用語が多いですが、重要な用語ばかりなので一つ一つおさえていきましょう。

問1 難易度:★★★☆☆

(ア)(イ)同じ種の個体間でゲノム上の同じ位置の塩基配列について、異なる塩基配列が存在することを多型といいます。塩基一つ単位だと一塩基多型(SNP)といいます。

(エ)(オ)アミノ酸を指定する部分に多型があると、アミノ酸が置き換わったり(非同義置換)、終止コドンが新たにできたりすることがあり、できあがるタンパク質が変化してしまいます。

問2 難易度:★★☆☆☆

ゲノムとは、DNAのもつすべての遺伝情報のことをいいます。たとえばヒトのゲノムというと、ヒトがヒトとして生命を維持するのに必要な遺伝情報の一揃いを指します。ヒト1個体は父親由来・母親由来のゲノムのあわせて二揃いをもつことになります。

【解答例】
遺伝子を含む領域と含まない領域を合わせた生命維持に必要な全遺伝情報の一揃いをゲノムという。(45字)

問3 難易度:★★★☆☆

(1)ジデオキシ法には、通常のDNA複製のと同じく、DNAポリメラーゼとが必要となります。

(2)ジデオキシリボ核酸のヌクレオチドの構造としてはZの分子構造が適切です。Xがリボ核酸(RNA)、Yがデオキシリボ核酸のヌクレオチドの構造です。

デオキシリボ核酸の「デ-(de-)」は否定や脱却の意味合いがあり「デオキシ-(deoxy-)」という接頭語は「酸素を取り去った」という意味があります。このことを知っていれば、「ジデオキシ-(dideoxy-)」という接頭語が「2個の酸素を取り去った」という意味になることは想像に難くないでしょう。

(3)ジデオキシ法は、ジデオキシリボ核酸が相補的なDNA鎖との水素結合はできるが、それ以降のDNAの伸長ができなくなることを利用しています。

与えられた図を見ると、プライマーのあとに続くDNAの配列は、

5’ーCATGATT-3’

であることが分かります。

問4 難易度:★★★☆☆

オーダーメイド医療とは、個人の遺伝情報の特徴を読み取り、薬の種類や投薬量などを調節して最も適した治療や予防を行う医療のことです。これにより、最も治療効果が高い、あるいは副作用を最小限に抑えた医療が可能になると期待されています。

【解答例】
個人の遺伝情報の特徴から薬の種類や投薬量などを調節することで、より効果が高く副作用の少ない治療や予防を行う医療のこと。(59字)

 

2 ATPと膜タンパク質

神戸大学の生物過去問(2018年度)「ATPと膜タンパク質」に関する問題です。活動電位の発生機序を140字以内で説明させる問題は難しいですが、それなりに出題されやすい事柄なので、この機会に説明できるようになっておきましょう。

問1 難易度:★★☆☆☆

(ア)水分子は細胞膜の脂質層を通過しにくいので、アクアポリンと呼ばれる膜タンパク質を通ります。

(イ)ATPからエネルギーを取り出すときの反応はリン酸が一つ脱離してADPとなるので、脱リン酸化といいます。

(ウ)ナトリウムポンプは別名「Na⁺/K⁺-ATPアーゼ」ともいい、細胞内でのATPのエネルギーを利用して細胞内からナトリウムイオンをくみ出し、カリウムイオンを取り込みます。

(エ)(オ)動物細胞でのエネルギー産生を担うミトコンドリアでは、呼吸の最終段階である電子伝達系という反応系において、生体膜をはさんだ水素イオンの濃度勾配を利用したATPの合成が行われます。

問2 難易度:★☆☆☆☆

生体膜がもつ、特定の物質だけを透過させる性質を選択的透過性といいます。

問3 難易度:★★★☆☆

濃度勾配に逆らって起こる物質輸送を能動輸送といい、濃度勾配に従って起こる物質輸送を受動輸送といいます。

問4 難易度:★★★☆☆

細胞が何らかの刺激を受けると静止電位より膜電位が上昇する。膜電位が閾値をこえると、電位依存性ナトリウムチャネルが短時間開き、ナトリウムイオンが流入して膜電位が正に転じる。それに反応して電位依存性カリウムチャネルが開いてカリウムイオンが流出し、膜電位が元に戻る。(130字)

問5 難易度:★★★☆☆

ミトコンドリアのATP合成酵素は内膜に埋め込まれていますが、膜内部(マトリックス側)でATPを生成します。よって、ATPが合成されてからナトリウムポンプにつかわれるまでには、ミトコンドリアの内膜と外膜を通過することになります。よって2回が正解です。

ATPの膜通過

問6 難易度:★★★☆☆

(1)P、Qどちらを添加した場合も、水が細胞内から細胞外へ通過した。(31字)

(2) Pが細胞外から細胞内へ通過し、細胞内のP濃度上昇にともなって浸透圧が上昇し、水が細胞外から細胞内へ通過した。(54字)

 

3 神経細胞と学習

神戸大学の生物過去問(2018年度)「神経細胞と学習」に関する問題です。全体的に難易度高めです。特に問5は実験内容とグラフが非常に読み取りにくいので、ていねいに読み取り出題者の意図をくみ取っていく姿勢が必要となります。

問1 難易度:★★★★☆

筋収縮のエネルギー源となるのはATPですが、ATPじたいは筋組織にわずかしかないため、運動するとすぐに消費しつくされてしまいます。そこで、エネルギー貯蔵物質であるクレアチンリン酸がすみやかに分解され、ADPにリン酸基転移させることで、ATPを合成します。

【解答例】
クレアチンリン酸が分解される際にリン酸基をADPに転移させることで、ATPを生成することができる。(49字)

問2 難易度:★★★☆☆

屈筋反射の反射中枢は脊髄です。

瞳孔反射は、光などの刺激に対して瞳孔の大きさが変化する反射をいいます。中でも光の強さが変わると同行の直径が変わる反射を対光反射といいます。対光反射は脳幹が機能しているかどうかの検査等のために医療的に利用されているのは知っている人も多いかと思います。反射中枢は中脳です。

問3 難易度:★★☆☆☆

アメフラシは水管から海水を出し入れしてエラ呼吸をしていますが、その水管に刺激を与えるとそれら縮めて体の中に引き込みます。しかし、この接触が繰り返されると、慣れが生じてエラを引き込まなくなります。

問4 難易度:★★★★☆

(D)の現象は鋭敏化です。

(1)アメフラシの水管以外の場所、尾部へ強い刺激を与えると、介在ニューロンに興奮が伝わり、介在ニューロンの末端からセロトニンが放出されます。水管の感覚ニューロンがセロトニンを受容すると、その末端でcAMPが産生されてカリウムイオンの流出を減少させ、膜電位の下がりにくい状態ができあがります。

(2)すると、水管の感覚ニューロンにおいてカルシウムイオン流入量が増え、シナプス間隙への神経伝達物質の放出量が増加します。

(3)学習は刺激を継続して与え続けるとより強いものになります。これは、継続した刺激により新たなシナプスがを形成されているためだと考えられます。

【解答例】
水管感覚ニューロンの軸索末端の形態が変化して分岐し、新たなシナプスを形成する。

問5 難易度:★★★★☆

(1)図2Bより、条件付けをしていない状態ではPに向かう個体の割合はほぼ50%なので、PとQどちらかをより好むということはないことが分かります。

(2)図2Bより、Pのにおいで条件付けした場合はPを嫌い、Qのにおいで条件付けした場合はQを嫌っていることから、ショウジョウバエが嫌う刺激で条件付けしていることが分かります。

(3)図2Cより、においP、Qどちらで条件付けを行った場合も条件付けをしていない場合とほぼ同じ結果となっています。よって、何らかの理由でにおいP、Qどちらについても条件付けが成立しなかったことになります。

よって、(ア)においと無条件刺激の条件付けができない、(エ)においPもにおいQも受容できない、(カ)無条件刺激の受容ができないの3つがこれに該当します。

また、(オ)においPとにおいQの区別ができない場合は条件付けじたいは成立しますが、その後T字迷路にいれてもにおいを区別できないので同じ結果になります。

 

4 種分化と遺伝的多様性

神戸大学の生物過去問(2018年度)「種分化と遺伝的多様性」に関する問題です。大問Ⅲとは対照的に難易度は低めで、常識的な知識の範囲で解ける問題がほとんどです。

問1 難易度:★★☆☆☆

(ア)生物全体を対象として種の分化と多様化の歴史を表した図を系統樹といいます。とくに、生物の遺伝子の配列を比較し、その類似性から作成する系統樹を分子系統樹といいます。

(イ)(ウ)(エ)系統樹は3つのドメイン(生物分類学上もっとも上位の階層)に分かれます。細菌ドメイン、古細菌ドメイン、真核生物ドメインに分かれ、古細菌ドメインはそのネーミングとは裏腹により真核生物ドメインに近いといわれています。

(オ)(カ)個体数の減少は遺伝的多様性の減少につながり、近親交配の確率が高まります。それにより、さらに個体数が減少し絶滅へと向かいます。これを絶滅の渦といいます。

問2 難易度:★☆☆☆☆

地理的隔離による種分化は、たとえば以下のような順序で起こります。

➃ ある生物が生息していた地域が、③ 気候変動や地殻変動による海水面上昇で2つに分断されました。

⑥ その生物は海を越えられないので、それぞれの地域で繁殖を続けて独自の進化を遂げ、別々の生物になりました。

① さらに、気候変動や地殻変動などにより、ふたたび2つの地域が陸続きになりましたが、⑤ 独自の進化を遂げた2種の生物は交配できなくなってしまいました。

問3 難易度:★★★☆☆

それぞれの選択肢について吟味していき、「環境の変化に対する適応変化」に合致するか見ていきましょう。

① トレーニング等によって得られた能力は時代に遺伝しないので、「適応」とは異なります。

② これも①と同じく1個体の一生の中での変化なので誤りです。

③ 交尾器の進化も「環境の変化に対する適応変化」に含まれます。

➃ 固い種子を食べて生き残れるように進化しているので、まさに「環境の変化に対する適応変化」です。

⑤ これはオペラント条件付けによる「学習」ですので、誤りです。

問4 難易度:★★★☆☆

【解答例】
突然変異により劣性の有害遺伝子が発生した場合でも、通常のランダムな交配が行われていれば多くの場合ヘテロ接合の形で潜在化している。しかし近親交配が行われるとホモ接合になる確率が上がって有害遺伝子が顕在化しやすくなり生存に不利な個体が増える。(119字)

ヒトでは古くから多くのコミュニティにおいて近親交配(近親相姦)がタブー視されています。上記のような見識が得られるずっと以前からのことですので、経験的もしくは本能的に避けているのかもしれません。

 

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